「セーター」は、冬の防寒着として身近な衣服です。
しかし、その名称が「汗」を意味する英語に由来していることは、あまり知られていません。
現在は暖かさを保つために着用するセーターですが、もともとはスポーツ選手などが汗をかくために着る衣服を指していました。
ここでは、セーターという言葉の成り立ちや意味の変化、日本で定着した経緯について詳しく解説します。
セーターの語源は英語の「sweater」
「セーター」は、英語の「sweater」を日本語に取り入れた外来語です。
英語の「sweater」は、「汗をかく」という意味の「sweat」と、「〜する人・もの」を表す接尾辞の「-er」からできています。
現在のセーターは防寒を目的として着るのが一般的ですが、言葉の由来には「汗をかく」という意味が深く関係しています。
「sweat」が表す意味
英語の「sweat」は、名詞では「汗」、動詞では「汗をかく」「発汗する」という意味です。
そのため、「sweater」という言葉は、もともと汗をかく人や、発汗に関係するものを表していました。
ただし、「sweat」と「-er」を組み合わせて、最初から現在のセーターを表す言葉が作られたわけではありません。
人を表す言葉から発汗を促すものへ、さらに発汗を目的として着る衣服へと、段階的に意味が変化しています。
「-er」は人だけでなく物も表す
英語の接尾辞「-er」は、動詞の後ろに付いて、その動作をする人を表します。
例えば、「teach」に「-er」を付けた「teacher」は教える人、「run」に「-er」を付けた「runner」は走る人という意味です。
一方、「-er」は、その働きをする道具や物を表すこともあります。
ただし、衣服を意味する「sweater」は、単純に「汗をかかせる物」という意味で新しく作られた名称ではありません。
もともと存在していた「sweater」という言葉が、発汗を促す衣服にも使われるようになったものです。
参考サイト
「sweater」は最初から衣服を意味したわけではない
現在の「sweater」は編物の上着を指しますが、古い英語では衣服以外の意味で使われていました。
語源辞典によると、「sweater」は16世紀から確認されている言葉です。
当時は、現在のような毛糸で編まれた上着を意味していたわけではありません。
16世紀には人を表す言葉だった
1520年代の「sweater」には、「一生懸命働く人」という意味がありました。
1550年代になると、文字どおり「汗をかく人」という意味でも使われるようになります。
つまり、「sweater」の古い意味を単純に「汗をかく人」だけに限定するのは正確ではありません。
17世紀には発汗を促すものを表した
1680年代になると、「sweater」は発汗を促すものという意味でも使われるようになりました。
人を表していた言葉が、汗をかかせる物や手段を表すようになったのです。
この意味の広がりが、後に発汗を目的として着る衣服を「sweater」と呼ぶ流れにつながります。
発汗させる衣服が「sweater」と呼ばれた
19世紀になると、「sweater」は汗をかかせるための衣服を表すようになります。
当時の「sweater」は、現在のようなおしゃれ着や一般的な防寒着ではありませんでした。
運動や減量と深く関係する実用的な衣服だったと考えられています。
1828年には発汗用の衣服を意味していた
語源資料では、1828年に、人や馬に汗をかかせて体重を減らすための衣服を「sweaters」と呼んだ例が確認されています。
競技や労働にかかわる場面では、厚手の衣服を着せて意図的に汗をかかせることがありました。
そのような衣服が、発汗を促すものという意味で「sweater」と呼ばれたのです。
ただし、1828年当時の「sweaters」が、現在のセーターと同じ形や製法だったとは限りません。
この段階では、発汗させるために着用する衣服を広く指していたと捉えるのが適切です。
1880年代にはスポーツ用の編物を表すようになった
1882年までには、「sweater」が毛織のベストやジャージーを表す言葉として使われるようになりました。
当初は、ボート選手などがトレーニング中に着る衣服を指していたとされています。
厚手の毛織物や編物を着て運動すると、体温が上がって汗をかきやすくなります。
そのため、体重を減らす目的や、運動の前後に体を冷やさない目的で着用されていました。
このスポーツ用の上着が、現在のセーターにつながる直接的な用法と考えられています。
フットボール選手が語源という説は本当なのか
セーターの語源については、「1891年にアメリカのフットボール選手が着用したことから生まれた」という説が広く紹介されています。
しかし、衣服を意味する「sweater」は1882年までに確認されています。
そのため、1891年のフットボールチームが言葉そのものを初めて作ったと断定することはできません。
アイビー・リーグから広まったという説
日本大百科全書では、19世紀後半にアメリカのアイビー・リーグのフットボールチームが、汗を吸収しやすい編物のユニフォームを着たことから一般化したという説が紹介されています。
アメリカの大学スポーツで編物のユニフォームが使用されたことは、「sweater」という呼び方が広く知られるようになった要因の一つと考えられます。
ただし、ボート競技などでは、それ以前から発汗や保温を目的とした毛織の上着が使用されていました。
したがって、「フットボール選手がセーターを発明した」というよりも、複数のスポーツで着用されたことによって、名称と衣服が普及したと考えるのが自然です。
1891年を誕生年と断定するのは難しい
セーターの由来を紹介する記事では、1891年をセーターの誕生年としていることがあります。
しかし、言葉の記録を確認すると、発汗用の衣服を表す用法は1828年、スポーツ用の毛織の上着を表す用法は1882年までさかのぼります。
そのため、1891年はセーターという言葉が誕生した年ではなく、フットボールを通じて広まったとされる時期の一つとして扱うのが適切です。
スポーツウェアから防寒着へ変化した
初期のセーターは、発汗や減量、運動前後の保温などを目的として着用されていました。
その後、毛織物や編物が持つ保温性、伸縮性、動きやすさが注目され、スポーツ以外の場面でも使われるようになります。
運動後の体温低下を防ぐために着用された
汗をかいた状態で運動をやめると、体温が急速に下がることがあります。
セーターには汗をかかせるだけでなく、運動の前後に体を冷やさないようにする役割もありました。
この保温性が評価され、セーターは減量用の衣服から、体を暖かく保つ衣服へと用途を広げていきます。
日常的な防寒着として普及した
やがてセーターは、スポーツ選手だけが着る衣服ではなく、一般の人が冬に着る防寒着として普及しました。
編物には伸縮性があり、体に合わせて動きやすいという特徴があります。
シャツやブラウスの上から着やすく、ジャケットやコートの下にも重ねられるため、日常着として定着していきました。
現在ではウールだけでなく、綿、麻、アクリル、ポリエステル、カシミヤなど、さまざまな素材のセーターがあります。
防寒用に限らず、薄手のサマーセーターや装飾性の高いファッションアイテムとしても利用されています。
日本で「セーター」が使われるようになった時期
英語の「sweater」は、20世紀初頭までには日本語に取り入れられていたと考えられています。
ただし、日本に伝わった正確な年が確定しているわけではありません。
現存する辞書や文学作品から、当時の使用状況を確認できます。
1914年の外来語辞典に掲載されている
『精選版 日本国語大辞典』では、1914年に刊行された『外来語辞典』が「セーター」の資料として挙げられています。
このことから、日本では遅くとも大正初期には、「セーター」という言葉が外来語として認識されていたことが分かります。
当時の『外来語辞典』では、セーターが「毛糸製の襯衣」と説明されていました。
「襯衣」は、肌着やシャツ類を表す当時の言葉です。
現在のような防寒用の上着というより、体に近い位置で着る毛糸製の衣服として理解されていたことがうかがえます。
1927年には「スウェター」という使用例がある
1927年に発表された宮本百合子の作品『一本の花』には、「小さいスウェターの一段を編み終った」という表現があります。
この実例から、昭和初期には「スウェター」という表記が文章で使われていたことが分かります。
ただし、1927年が日本語における最初の使用年という意味ではありません。
これは、現時点の国語辞典に掲載されている文章上の初出例です。
なぜ「スウェター」ではなく「セーター」になったのか
英語の「sweater」は、日本語の「セーター」と完全に同じ発音ではありません。
英語では、アメリカ英語なら「スウェター」、イギリス英語なら語尾を弱くした「スウェタ」に近い音で発音されます。
過去には複数のカタカナ表記があった
日本語では、これまでに「スウェター」「スエーター」「セーター」などの表記が使われてきました。
英語に近い音をカタカナで表そうとした表記と、日本語として発音しやすい表記が並存していたと考えられます。
その後、日本語の発音や表記に合った「セーター」という形が一般化しました。
「スエーター」という表記も間違いではない
国語辞典によっては、「セーター」の異表記として「スエーター」を掲載しています。
現在は「セーター」が一般的ですが、過去の文章や資料では「スウェター」や「スエーター」と表記されることがあります。
いずれも、英語の「sweater」を日本語で表したものです。
セーターとスウェットは語源的につながっている
現在の日本語では、「セーター」と「スウェット」は異なる衣服を表します。
しかし、どちらも英語の「sweat」に関係する言葉です。
セーターは編物の上着を指す
セーターは、毛糸などを編んで作った上半身用の衣服です。
一般的には、頭からかぶって着るプルオーバー型を指します。
ただし、英語の「sweater」は、前が開いたカーディガン型を含む場合もあります。
スウェットは汗を吸収する衣服に由来する
スウェットシャツは、運動中の汗を吸収しやすい生地で作られた衣服です。
英語では、上着を「sweatshirt」、ズボンを「sweatpants」、上下を「sweatsuit」などと呼びます。
日本語では、「スウェット」だけで生地や衣服を表すことがあります。
これは日本語で一般化した略し方であり、英語では具体的な衣服名を使うのが基本です。
セーターとスウェットは現代では素材や製法の異なる衣服ですが、どちらも汗を表す「sweat」に関係しています。
セーターとニットの違い
「セーター」と「ニット」は同じ意味で使われることがありますが、本来の意味は異なります。
ニットは編物全般を表す
「ニット」は、英語の「knit」に由来する言葉です。
本来は糸を編むことや、編んで作られた生地、編物製品全般を表します。
セーターだけでなく、カーディガン、帽子、マフラー、手袋、靴下などもニット製品に含まれます。
セーターはニット製品の一種
セーターは、上半身に着るニット製品の一種です。
つまり、本来の意味では、ニットが素材や製法を含む広い概念で、セーターが具体的な衣服の名称となります。
ただし、日本のファッション業界や日常会話では、編物のトップスを「ニット」と呼ぶことが一般的です。
そのため、「ニットを着る」という表現も間違いではありません。
セーターの呼び方は英語圏によって異なる
編物の上着を表す言葉は、国や地域によって異なります。
アメリカ英語では「sweater」が一般的ですが、イギリス英語では「jumper」や「pullover」もよく使われます。
アメリカでは「sweater」が一般的
アメリカ英語の「sweater」は、上半身に着る編物の衣服を広く表します。
頭からかぶるタイプだけでなく、前開きのカーディガンを含めることもあります。
一方、アメリカ英語の「jumper」は、ブラウスなどの上から着る女性用の袖なしワンピースを意味することがあります。
日本語の「ジャンパー」とも意味が異なるため、注意が必要です。
イギリスでは「jumper」も使われる
イギリス英語では、頭からかぶって着る編物の上着を「jumper」と呼ぶのが一般的です。
「pullover」も、頭から引っ張って着るタイプの衣服を表します。
「jersey」は、地域や文脈によって、編物の上着、スポーツ用シャツ、編地などを意味します。
どの言葉が使われるかは、国や衣服の形、使用される場面によって異なります。
セーターの語源を説明するときの注意点
セーターの語源については、「汗をかく人が由来」「フットボール選手が考案した」「1891年に誕生した」など、さまざまな説明があります。
これらの情報には、言葉の成立、衣服としての使用、スポーツ界での普及が混在しています。
編物の衣服自体は以前から存在していた
編物の衣服は、「sweater」という名称が定着する以前から存在していました。
19世紀後半にセーターという衣服そのものが突然発明されたわけではありません。
すでに存在していた毛織や編物の上着が、スポーツ選手の発汗用・保温用の衣服として使われ、「sweater」と呼ばれるようになったのです。
その後、「sweater」という名称がスポーツ以外の編物の上着にも広がりました。
特定の年だけを起源とするのは正確ではない
衣服を意味する「sweater」の用例は、19世紀前半から段階的に確認されています。
そのため、1891年などの特定の年をセーターの誕生年とするのは適切ではありません。
セーターの語源は、一つの出来事によって生まれたものではなく、汗をかく人、発汗を促すもの、減量用の衣服、スポーツ用の編物、日常的な防寒着という意味の変化から捉える必要があります。
セーターの語源に関するまとめ
「セーター」は、英語の「sweater」を日本語に取り入れた外来語です。
「sweater」は、「汗をかく」という意味の「sweat」と、「〜する人・もの」を表す「-er」からできています。
16世紀には一生懸命働く人や汗をかく人を表し、17世紀後半には発汗を促すものという意味でも使われるようになりました。
19世紀には、人や馬に汗をかかせるための衣服を指すようになり、1880年代にはボート選手などが着る毛織の上着を表すようになります。
その後、フットボールをはじめとするスポーツで使用されたことで普及し、発汗や減量を目的とした衣服から、保温性に優れた日常着へと変化しました。
「スウェター」「スエーター」などの表記を経て、日本語では現在の「セーター」という呼び方が一般化しました。
以上、セーターという言葉の語源についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

